『ア・ルース・ボーイ』


ア・ルース・ボーイ (新潮文庫)

ア・ルース・ボーイ (新潮文庫)

有名進学校を中退した少年と、出産によって女子校を退学した少女と、その幼い赤子で必死に生活を成り立たせようとする様を描いた小説です。ストレートで、今時気持ちのよいぐらい、飾るところのない青春小説です。佐伯一麦という作家は、生きる上での当たり前の辛さ、苦悩を描き出すことを好みます。その筆致は堅実そのものです。
文庫版の解説を山田詠美がしています。
「こういう言葉があるそうだ。知性を自慢する知識人は、自分の独房の広さを自慢する囚人のようなものだ。いいよね、この言葉。そして、いるよね、沢山の囚人。こういうプリズナーは「自己否定」という甘い蜜がお好き。しかし、自己を否定するなんて、そういう甘っちょろいことは、それこそ独房のなかでやって欲しいことであり、人前に出てきて欲しくないものである。何の役にも立たないよ。」
うーんその通りだなぁ、と思ったところで我が身を振り返ってみたり。
『ア・ルース・ボーイ』はきっと自己肯定の物語。知性的であること、権威的であること、そうしたものを拒絶した末にたどり着く飾らない自己。そんな、ちっぽけな自己をなりふり構わず受け止めたところに、この小説の魅力があるんじゃないかと思います。
「囚人たち」にぜひ読ませたい作品ですね。