『白仏』


白仏 (文春文庫)

白仏 (文春文庫)

映画監督、ミュージシャン、作家と、実に多くの肩書きを持つ辻仁成。長らく疑問視されてきた作家としての資質は、この『白仏』によって永久に証明されたのではないでしょうか。男女の恋愛をロマンティックに描いてきた著者ですが、本作においては一転、戦中〜戦後の日本再建の様相を、一人の男性の生涯と重ね合わせて描いています。それまでの作風からはガラりと変わったものの、フランスのフェミナ賞を受賞するなど高い評価を受けました。
作品のモデルとなった人物は辻仁成自身の祖父で、この人物が実際に建立した人骨で造った仏−白仏は、福岡県大川市大野島勝楽寺の納骨堂に納められています。
この作品がフェミナ賞を受賞することができたのは、単に骨で大仏を造るというオリエンタリズムが評価されただけではないように思います。今時珍しいほどにクラシックで、修辞技法に意識的な文体は、近頃流行っている極端なバイオレンスやセックス描写に対する、優雅な反論のようにさえ見えます。
他に紹介に値する作品に、『太陽待ち』が挙げられます。