『センセイの鞄』


センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)

元・理科教師にして36歳デビューという一風変わった経歴の作家さんです。もともと短編を中心に書いてきましたが、川上弘美にしてはめずらしく、『センセイの鞄』は長い作品です。そして同時に現時点での代表作と言われています。(まだまだ文学キャリアが浅い方なのでこんな言い方は大変失礼なのですが)
40手前の主人公・大町ツキコと30以上歳の離れたかつてのセンセイの間で繰り広げられる淡い恋の話です。著者らしく幻想的な文体で描かれています。この人の作品はやたらとカタカナの人名が出てきます。そういうものに煩雑さを覚えないのであれば楽しく読めるでしょう。
定式化された構図の作品を多く書いてきたと見なされ、そのために作家としての資質を危ぶまれていましたが、本作をもってあらためてその実力を世に知らしめた形となりました。他に秀逸な作品として『物語が、始まる』などが挙げられます。