『錦繍』


錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

説明不要。日本文学史に残る恋愛小説です。宮本輝の最高傑作との呼び声が高い作品です。
書簡往復形式という、今時めずらしいほどの古典的手法で描かれています。女が別れた夫と偶然再会したところから物語は始まります。次第に募る形容しがたい思いに心を揺さぶられ、夫へ長い長い手紙を書くのです。読者はその手紙のやり取りを、結末まで見届けることになります。
恐らくこれは大人の恋愛の、清算のあり方なのではないかと思います。決してハッピーエンドの小説ではありません。それでもこの小説が希望たり得るとしたら、それはこの小説で言葉を交わす二人の男女が、痛みを抱えながらもそれでも明日へ向けて一歩踏み出してゆく、生きるための力強さを読者が共有できるからなのではないかと思います。
錦繍と聞くだけで鳥肌が立つほど、かつてこの作品に感動を覚えました。文句無しに紹介できる作品です。
他に宮本輝で紹介したいのは、『幻の光』『泥の河』などです。