きらきらひかる


きらきらひかる (新潮文庫)

きらきらひかる (新潮文庫)


『神様のボート』の次ぐらいに、人に薦めるかなあという作品です。江國作品の、テンションの低い女性主人公が切り取る素敵な世界の風景、っていう芸風はほとんど完成系に近いと思うんですがどうなんでしょうか。そしてどの主人公も全部同じ人に見えてしまうのは気のせいなんでしょうか
この作品の素晴らしいところは、恋愛小説を極めてリアルに書いているところ。
恋愛は永続的な代物ではない、というごくごく当たり前のことを、当たり前に描いた恋愛小説が世にどれだけあるんでしょう。「恋愛は虚構で、この気持ちも虚構なんだろうけど、でも好きだぜ!」的な恋愛感情至上主義はこの作品にはありません。「恋愛感情」ってやつはなかなか破壊力があって、それがあるだけで小説が100pくらい稼げちゃうわけです。ところがそれに頼って描かれる恋愛小説なんて、虚構どころか本当に嘘なので、面白くもなんともない。
いずれ破綻する。それが強烈に意識された時、純愛ってものがもの凄い価値を帯びてくる。本作でいえば、同性愛者の夫と軽い精神病の妻の偽装結婚は永続的な関係じゃあない。夫の恋人である紺君との恋愛も、基本的には不倫の体裁を取っている以上永続的じゃあない。ましてその三人で展開される友情にも、いつまでも続くという保証がない。
だからこそ『きらきらひかる』は純度の高い恋愛小説で、そして救いがないんだなあと思う。