海峡の光


海峡の光 (新潮文庫)

海峡の光 (新潮文庫)


辻仁成芥川賞をとった作品です。かつていじめっ子といじめられっ子だった二人が、十数年の時を経て看守と囚人という、逆転した立場で再会する話です。全編を通して重く、暗いムードが立ちこめており、決して楽しい話ではありません。
看守という、圧倒的に優位な立場にありながら奇妙な劣等感に苛まれる主人公の、苦悩する様は読んでいて息が詰まるというかなんというか。デビュー作の『ピアニシモ』からの感覚的な描写をのままに、ストーリーとして魅せる方法論が発達したような、そんな印象を受けます。個人的には、弱者の心理を書かせたら辻仁成は日本の作家のなかでも飛び抜けてうまいように思います。
解説の江國香織も似たようなことを言っているのですが、辻仁成の作品の随所に出てくる詩的表現。これを抜群に巧いと思うか、あるいは鼻につくかで、辻作品への評価は大きく異なるんだろうなあと思います。僕はレトリックに拘った描写が好きなので、辻仁成の作品を読むのが好きです。三島由紀夫も好きです。