家族八景


家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)


他人の心を読めてしまう若い家政婦の女性が、様々な家族の内面を捉える作品です。市川悦子の家政婦みたいなものか?と、タイトルからぼんやり想像して読んだのですが、違った。家族というものの虚構性をこれでもかと執拗にえぐり出しています。特に人間の意識の茫漠な様は、実際に映像化されているかのように鮮やかで、作者の天才的な描写力を感じました。舌を巻くとはこのことかと。色々考えさせられました。
なんだか筒井康隆の中期ってほんと凄いんだなあと感心してしまいます。初期の筒井康隆はSF小説家でした。『家族八景』は主人公が読心能力者ですが、テレパスをめぐる記述に初期の名残というか、著者のSFに関する知識の蓄積が見え隠れします。それは著者の引き出しのごく一部にすぎず、他にも社会学精神分析学、言語学、果ては生態学と、幅広い教養を備えているインテリです。余談ですがWikipediaによれば、筒井康隆は中学時代にIQ178の天才児だったとか。
ちょっとケチをつけるなら、主人公はいくら心が読めるとはいえ、18歳にしては落ち着き過ぎ。精神力が人間じゃないと思う。まあ、主人公として小説内語り手を半分引き受けているから仕方ないのかなあと思いはするんですが。