ニッポニアニッポン


ニッポニアニッポン (新潮文庫)

ニッポニアニッポン (新潮文庫)


ニッポニアニッポンってのはトキのことです。トキの置かれた状況をナショナリズムの歪んだ発露であるとみなし、佐渡のトキ襲撃計画を企てる少年の話です。完全に自己を客観化することができなくなっている少年の凄まじい自己肯定が、シリアスなんですがユーモア。面白い。変質者って本当にこういう論理展開で物事を考えるのかなあと興味深く読みました。それにしても相変わらず阿部和重の作品らしく、主人公が何かしらの目的のために体を鍛える。『アメリカの夜』ではジークンドー、『IP』ではスパイの体術。本作では襲撃のために。
主人公の少年はインターネットを通じてトキに関する情報を入手するのですが、その際に調べたURL等が全て小説内に登場してきます。試しにアクセスしてみたら本当にそこへ飛べました。現実と虚構がけっこう入り乱れてます。余談ですが、この小説が発表された後、新潟のトキ飼育施設が小説の影響を恐れ、主人公の襲撃実行日だけ警備を増員したそうです。