幻の光


幻の光 (新潮文庫)

幻の光 (新潮文庫)


宮本輝と言えば文句無しに『錦繍』を薦めるのですが、この『幻の光』も捨てがたい。同一のテーマを全く異なった手法から描き出した両作品は、ぜひ二つ手にとって読み比べてほしいと思います。
謎の自殺を遂げた夫へと心の中で呼びかけ続けながら、新しい夫やその周囲を取り巻く質素な世界で日々を過ごしていく作品です。日本海、漁師、寂しさや空虚さをそこかしこに散りばめた作品世界の中で、妻の関西弁の独白が、ひたすら夫へと向けられて、そして反芻されていきます。この独白は本当に美しいもので、なぜこの傑作がもっと脚光を浴びないのかと不思議でなりません。