抱擁家族


抱擁家族 (講談社文芸文庫)

抱擁家族 (講談社文芸文庫)


戦後日本を考える上で看過できない作品、と江藤敦が言っていたので読みました。
米兵に妻を寝取られた男が家族を立て直そうと奔走する話です。それでも少しずつ軋んでゆく家族を前にして、次第に夫も己を喪失していきます。全編を通して露呈する夫婦の心の行き違いがもの悲しいものになっています。楽しい小説ではないのですが、将来結婚する時にでも相手に読ませておいていいかなあと思いました。ものすごい結婚にネガティブになってしまうかもしれないのでその辺は諸刃の剣なのですが。
個人的に感銘を受けたシーンは、家族を休日に外での行楽へ誘い出したものの、盛り上がりに欠け、いざ家へ帰ろうとなった時のものです。

俊介は、他人より車を早く拾って家族を乗せるというたわいもないことに、実に懸命になった。まるでその一つに失敗すると、とりかえしのつかないことになるといったような、もう永久にだめになってしまうというような切羽つまった気持だった。


中年男の必死な様が伝わる、とても秀逸な描写だなあと感じました。