太陽待ち


太陽待ち (文春文庫)

太陽待ち (文春文庫)


植物状態の兄と老映画監督の記憶が時代や空間を越えてリンクする壮大な物語です。著者の持つ古風な文体美と、レトリック上の技巧が程よく調和しており、辻仁成を未読の方に薦めたい作品になっています。よく言われる著者の度を超えた「自己陶酔」的なものも、本作では複雑に構築されたプロットのせいか、なりを潜めているように感じられます。
主人公が舞台セットの美術さんで、彼はことあるごとに家屋やその他の構造物の感触、明度、質感といったものに言及するのですが、ここぞとばかりに辻仁成の修辞技法が爆発しています。色彩感覚にここまで拘った作品というのも珍しい気がします。
以前のレビューにも書きましたが、辻仁成は単なる「イロもの」作家ではないと、僕は思っています。本作がずっとあとの世代になって、辻作品群の中でどう位置づけられるのか、遠い先の話ではありますが、楽しみです。




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