嗤う伊右衛門

嗤う伊右衛門 (角川文庫)

嗤う伊右衛門 (角川文庫)



あまりにもぶ厚すぎて読む気がなかなか起きない京極夏彦ラインナップ。その中では比較的薄めの本作ですが、それでも手元に置いてから読み始めるのにかなりの時間を要しました。というのは、本作は四谷怪談のパロディというか新解釈というか、そういう性質の作品なので、あんまり本家四谷怪談に明るくない自分が読んでも、もしかして面白くないんじゃあないだろうか??なんて思って放置していたのです。積ん読はよくないんですが。いやはや。
旅行の暇つぶしにと持って行ったのですが、いやいやどうして。滅茶苦茶面白いじゃないですか。おどろおどろしさと哀しげな人間模様が交錯していて、悲哀なリリシズムがそこかしこに存在するのです。いや、リリシズムという単語を使ってみたかっただけなのですが。
個人的に秀逸だと思った箇所は、伊東が武士の偉そうな態度へ抱いた憎悪を、「ぷくりと泥がわいた」と表現したところでしょうか。鬱積した「表現仕切れない何か」を泥と表現して可視化しているのがクールですごくいい。と思う。終盤、直助の悲痛な告白にはちょっと涙が出そうになった。