プレーンソング

プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)



例えば『季節の記憶』や『この人の閾』のように哲学的な題材を扱うよりも、本作『プレーンソング』のほうが、よっぽど面白いと思える。
この人の小説は、相変わらず何も起こらない。筋が無い。結局全編を読んでも、主人公がどういう職業に就いているのかとか、登場人物達とどういう間柄であるのかとか、そういう情報も出てこない。どうやら夏の話らしい。海に行くらしい。しかしそれがいつの時代で、どこの海なのか、それも結局分かりはしない。
青春を主観的に回想すると、こうなるんだろうか。そこには余計な説明や、一つひとつの行動の意味なんてものは必要なくて、ひたすら思い出だけが残る。
青春小説だと思う。見知らぬ若者を自分の部屋に住まわせてすごす男の話です。