『西の魔女が死んだ』


西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)


売れているらしいので読んでみました。

西の魔女が死んだ

と、いきなりタイトルと同じ文言の冒頭。
「タッチとしては江國香織っぽいかも」と友人に言ったあとで双方を見比べたところ、全然似てないことに気づきました。江國はわりと一人称複数視点の作品が多いですが(『きらきらひかる』とか『神様のボート』とか)、本作は三人称で風景描写や心理描写があんまり多くない。風景描写や心理描写が少ないということは話の中にストーリー上の山場的なものが道具立てとして必要になるわけですが、本作ではそれが主人公<まい>の精神修養のプロセス、ということになります。
主人公はおばあちゃんから「魔女」的な心の在り方、それは本作においては万物に対して寛容である、という、まあ大雑把に言えばそういう精神性を学ぶわけです。「魔女」であること、本作で「善く生きる」とほぼ同義に語られるこの概念は、ある種の倫理的なテーマであるように感じられます。現代のように様々な情報や幸福の水準が既に行き交っている時代よりずっと前、雑多な宗教が人々の生活を律するよりも更に前の段階で、原的に人が人として生きるための、いわば「倫理の成立要件」とでも言うべきものが、この作品の随所に散りばめられているようです。
平易な文体と扱う主題の重さのギャップがとても新鮮です。ラストで読者の心を鷲づかみにしてくれる仕掛けもうれしいです。